添乗員がツアー中に食事するスタイルは2通りに分かれる。募集物のツアー(新聞やツアーパンフレットで一般募集して参加者を募るツアー)の添乗員は自社社員ではなく契約添乗員であることが多いため、企画旅行会社からの指示でお客様とは別のテーブルで食事をする。海外へツアーで出かけたことがある人ならば、添乗員と現地ガイド、あるいはドライバーと一緒に小さなテーブルで食事をしているのを見かけたことがあるだろう。
一方当社で企画し自ら添乗するツアーは、食事はお客様とのコミュニケーションの格好の場として考えており、基本的にお客様と一緒のテーブルで食事をする。だから食べるものはお客様と一緒だ。英語やその土地の言葉が話せないお客様に代わって飲み物を注文することはもちろん、レストランスタッフとのコミュニケーション一切をお客様に代わり行う。また、食事中のお客様の会話からツアー中のちょっとしたことを聞きもらさずに、後に生かしていくことが目的だ。
そして、今まで出かけたツアーのほとんどで、朝食を除く食事のたびに各皿を写真に撮ってきた。中には、自由行動中に自分でふらっと入ったレストランの食事まで撮ってある。けっして「インスタ映え」するものではなく、団体食ゆえ特別豪華なものでもないが、ヨーロッパの「食」を知るきっかけになるのなら、ここで紹介していきたい。
中には記憶に残るような楽しい、特別な食事もあった。反対に「これは…?」と首をかしげるようなものもあった。それを、その時のホテルやレストランでのエピソードも含めて紹介しよう。
食事とアルコールの関係
基本的にヨーロッパの食事は濃い目の味が多い。なぜなら食事にワインは欠かせず、ワインに合う味として調理されているからだ。
ところがツアーに参加するお客様(当社のお客様はお年を召した方が多い)は、食事中にワインを飲む人は少なく、その人たちはなかなかツアーの食事になじめないようだ。反対にワインを飲む人にとって、この味付けは大変好まれる。
よく「ツアーの食事はうまくない」という人がいるが、きっとこのようなことが原因なのだろう。食事とアルコールはどの国でも密接な関係にあり、それに合わせて調理されていることを理解したほうが良いと思う。
夕食は通常前菜、メイン、デザートの3コースだが、時にはその後チーズの盛り合わせが出ることがある。チーズも立派なデザートなのだ。チーズにあわせてワインを飲みながら、食後のひと時を過ごすのはヨーロッパでは大切なこと。やはり「郷に入っては郷に従え」ということだろう、単に腹を満たすということではなく文化、風習とともに食事をすることが大事だ。
一昔前は「食後の3C」という習慣があった。コニャック、シガー(葉巻またはタバコ)、チョコレートだ。さらにコーヒー、会話が加わって5Cということもある。
いずれにせよ食後のコニャックはマストで、食事とアルコールは切っても切れない関係なのだ。個人的にはこの食後の3Cはとても共感できる。どこへ行ってもホテル内のレストラン(たいていツアーの食事はホテル内レストランだった)で食事をしたのち、バーへ移動してコニャックではなくともワインその他のアルコールとシガー、そして口直しのチョコレートとともに、一緒に食事をした人たちとの会話を楽しむ。添乗中の一日の終わりにほっとする一時だ。
アルバにて
これからいろいろな食事を紹介していくその序章として、自由行動中に入るレストランでの食事をひとつ紹介しよう。
イタリア、アルバに3泊したときの自由行動中の昼食だ。
スケッチを目的としたツアーのため、参加者は日中食事をすることも忘れるほど町中でのスケッチに集中している。そんな時、添乗員は暇だ。暇、というのは語弊があり、レストランで食事をしたいという一部の参加者のためにレストランを手配したり、それ以外は次のツアーの資料として町中をくまなく撮影して回る。その合間の食事ということだ。
イタリア、リグーリア地方ピエモンテ州に位置するアルバは、トリュフで有名な町。黒トリュフはここでは当たり前、なかでも白トリュフはとても希少なことで世界的に有名だ。ちょうど訪れたのはアルバでのトリュフ祭直前だった。
アルバ滞在1日目の昼食はまだ町中の様子がよくわからないときで、ゆっくり食事をしたいという気の合うお客様とレストランに入ることにした。せっかくアルバに滞在するのだから、まずはトリュフを食べようということでメニューを見て選んだのが以下の画像。食事に合う赤ワインとともに各皿をシェアした。
前菜はアンティパスト・ミスト。日本にいるときならこれだけでメイン・ディッシュになりそうだ。
セコンド・ピアットはパスタ。贅沢にトリュフのスライスをかけたタリアテッレ・アラ・タルトゥーフォ(トリュフ)。
メインはジビエの季節ということでウサギ肉の煮込みだ。
とても贅沢な昼食のように見えるが、値段にするとさほど高いものではない。これだけを日本で食べたら大変な金額になるだろう。
最初の紹介が個人的な食事内容になってしまったが、この後は趣旨に沿って紹介するつもりだ。
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