筆者自身が添乗員として実際に訪れた美しい村を紹介する第8回目は、トスカーナ州フィレンツェ県のチェルタルド。
フィレンツェからシエナ行の鉄道(約50分)で気軽に行ける美しい村である。
考えてみたら、美しい村はその立地性の特異さ(だいたい辺鄙なところや切り立った崖の上が多い)、中世の姿を今に伝えていることから、村全体の規模が小さい、そしてそのせいで駅が作られないといった理由から、公共の交通機関だけで行けるところはあまり多くない。
ところが、チェルタルドは、前回案内したアンギアーリ同様村というよりは町の体をなしていて、地図で見てもかなり広いことがわかる。
平地にある住宅街の新市街はバッソ、城壁に囲まれた古い家並みが並ぶ緑の丘に建つ旧市街はアルトと呼ばれており、新旧の市街をフニコラーレ(ケーブルカー)がつないでいる。
村の面積のほとんどはバッソ(新市街)で、アルトはほんの一部分だ。
バッソには、普通の町には大体ある駅、学校、スーパーマーケットなど生活に必要な施設がほとんど揃っている。だから人口も増え、駅が作られたのだろう。
そして、チェルタルドが美しい村に登録されたのは、この村のほんの一部分でしかないアルトのおかげといってもいい。
チェルタルドのフニコラーレ
アルトへ行くには、フニコラーレ(ケーブルカー)が唯一の方法だ。
けれども「唯一」というには少々語弊がある。
アルトがある丘は、緩やかな遊歩道が頂上まで続いていて、ハイキング気分で登ることが出来るからだ。
けれども、ここも宿泊地ではなく日帰りで立ち寄った村。時間がないのでフニコラーレを利用することにする。
ケーブルカー自体はイタリアでも珍しくないが、日本で普段乗ることがない交通機関を利用できることは、ちょっとワクワクする。
バッソにある鉄道駅から一本道を進んだところにボッカッチョ広場があり、その突き当りの建物の一角にフニコラーレの麓駅がある。
看板がなければ、そこが駅だとは分からない。
中に入り、チケットを購入してさっそく乗ってみると、わずか1~2分で頂上駅に到着してしまう。どうってことはない乗り物だが、このワクワク感、わかる人にはわかるだろう。
頂上駅はちょっとした見晴らし台になっていて、バッソの町並みが一望できる。
遠くには、トスカーナの緩やかな緑の山や丘が続き、アルトとは違うバッソの現代風の家並みが広がっている。
唯一、教会などの古い建物だけが、アルトと同じ赤煉瓦だ。
さあ、さっそくアルトを探索してみるとしよう。
チェルタルド・アルト
頂上駅を出るとすぐに、ツタが絡まる煉瓦造りの家並みが続く。
すぐ右手はホテル・リストランテだ。
後でランチを取る場所に困ったときのため、ここは候補として押さえておくことにした。
このホテル・リストランテを背に、プレトリオ館までの一本道が続く。
それも200メートル位、すぐに行きついてしまう。これがアルトのメインストリート、石畳の道までもが煉瓦だ。
アルトには「デカメロン」を書いた偉大な作家、ジョバンニ・ボッカッチョの生家があり、また14世紀の貴重なフレスコ画「聖母」のあるサンティ・ヤコボ・フィリッポ教会には、ボッカッチョの墓がある。
全てはボッカッチョ中心の村だ。
先ほどのリストランテから歩き始めると、右手にお土産屋があり、その先の左手はもうすでにボッカッチョの生家だ。
そして、同じ並びにあるサンティ・ヤコボ・フィリッポ教会を過ぎると、ゆるやかな坂になっていて、最後はプレトリオ館に到着する。
この赤煉瓦一色の光景は見事だが、これだけしかないのか?
そこで、メイン・ストリートから右手(バッソ方面へ緩やかな下り坂になっている)の路地を進んでみる。
アルト全体は城壁で囲まれていて、いくつか古い門がある。
その門のひとつを出て、オリーブの畑まで降りて振り返ると、チェルタルド・アルトの全体が見える。
事前に調べた限りでは、チェルタルドは群馬県の甘楽町と姉妹提携都市になっているらしい。
姉妹提携については、群馬県出身でもない私が語る必要はないので、何か日本と関連がある、姉妹提携の証になるものがあるか、探してみた。
ボッカッチョの生家の奥に、ツーリスト・インフォメーションがあり、そこで資料をいくつか見てみると、どうもプレトリオ館に姉妹提携の証があるようなので、プレトリオ館の中へ。
建物の奥は中庭になっていて、そこに「甘楽庵」と書かれた小さな庵が建てられていた。
普段は、おそらく日本人など皆無であろうこの村も、姉妹提携の調印時には多くの日本人が訪れたのかもしれない。
屋上から見たチェルタルド
いくつかランチを取ることが出来そうな店はあったが、先ほど候補として押さえておいたホテル・リストランテが気になったので、そこまで戻って食事をした。
ツアー参加者のご婦人とともに赤ワインを頼み、最初はワインに合いそうなハムを中心としたアンティパスト。
その後、ポルチーニ・リゾットとシカ肉の煮込みのリングイネを頼んだ。
いずれもワインにとてもよく合った。
リストランテと言えど気負う必要が全くない、とてもフレンドリーな店なので、チェルタルドを訪れたら、このリストランテで食事をするといい。
食後の散策時に、ボッカッチョの生家に入ってみようと思い、チケットを購入して中へ。
建物は3階建で、上まで登ると屋上へ出ることが出来た。
そこからは、チェルタルドの赤煉瓦の家並みが一望できた。
あいにく雨が降り出しそうな曇天だったが、かえってそのおかげで赤煉瓦の色が引き立ち、美しさを際立ててくれていた。
やはり遠くに見えるトスカーナの緩やかな丘の緑と、この赤煉瓦の風景はいいコントラストだ。
残念ながら、現在チェルタルドは「イタリアの美しい村々」の登録から外れてしまっている。
外された理由は定かではないが、訪れた時は間違いなくリストに登録されていた。そして、自分が見たチェルタルドは、間違いなく美しい村に値すると思った。
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