筆者が自社の会計を一から取り組んで20数年、一貫して感じるのは「知れば知るほど、会計はおもしろい」ということ。
前回はいわば序章みたいなもので、仕訳帳をコツコツ記帳していれば、最終的には決算書まで理解して作成することができること、無料の会計ソフトを利用すれば、自分で自社の会計を行うことができることに触れました。
大企業の会計は、それは大変でしょうが、中小企業やスタートアップの会計は、意外とシンプルで理解しやすいものです。
理解できれば、おもしろくなってくるのが人の常。
今回は、会計の基本の「き」である複式簿記と、仕訳における勘定科目から案内していこうと思います。
ネット上でもいろいろな解説ページがありますが、全くのゼロから始めた筆者が、どのようにこの基本を理解していったかにこだわって書いてみました。
複式簿記の基本の「き」
全ての帳簿の記入方法である「複式簿記」とは、一体どういうものでしょうか?
何をいっているのか分かりにくいので、具体例を示してみます。
例1)業務用として10万円未満のノートパソコン1台を現金で購入した場合、現金出納帳には、
日付 | 勘定科目 | 摘要 | 収入金額 | 支出金額 | 差引残高 |
前月繰越残高 | 500,000円 | ||||
⚪︎月⚪︎日 | 消耗品費 | ノートパソコン代 | 90,000円 | 410,000円 |
と、銀行の通帳にも似た方法で記録します。このように、一つの項目についての増減を記録していくことを「単式簿記」と言いますが、これを複式簿記で記録すると、
日付 | 摘要 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
⚪︎月⚪︎日 | ノートパソコン代 | 消耗品費 | 90,000円 | 現金 | 90,000円 |
となります。
同じ90,000円という金額が、借方・貸方両方に記載され、それぞれに別々の勘定科目が書かれています。ですが、単式簿記にあった現金の差引残高は、ここでは記録されません。
「これじゃあ、現金がいくらになったのか分からないでしょ?」
と思われるでしょうが、問題ありません。
前回触れたとおり、全ての帳簿は連動しています。手書きならば、仕訳帳に記帳された上記内容は、別途自分で記帳しなければなりませんが、会計ソフトを利用していれば、現金の差引残高は自動的に総勘定元帳に記帳されています。総勘定元帳の「現金」項目を確認すれば、この内容が確認できるようになっています。
話をもとに戻すと、複式簿記の大原則は、
- 借方:複式簿記における左側の項目で、資産・費用の増加/負債・純資産・収益の減少を示す
- 貸方:複式簿記における右側の項目で、資産・費用の減少/負債・純資産・収益の増加を示す
- 借方・貸方の金額は必ず一致する
です。上記の場合、ノートパソコン購入によって、
左側(借方)に消耗品費(費用)が記載(増加)され、
右側(貸方)に現金(資産)が記載(減少)されている
ので、複式簿記の定義である、原因と結果の二側面を記録しています。
例2)違う例を示してみましょう。今度は、取引先のA社に販売した商品の代金が振り込まれたと仮定します。その場合、
日付 | 摘要 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
⚪︎月⚪︎日 | A社宛⚪︎月分売上 | 普通口座 | 100,000円 | 売上 | 100,000円 |
と記録し、
左側(借方)に普通預金(資産)が記載(増加)され、
右側(貸方)に売上(収益)が記載(増加)されています。
前例と違い、借方・貸方どちらも増加することは、通帳のような単式簿記の例からすると理解しにくいかもしれません。しかし、複式簿記の原則に当てはめれば、
借方:複式簿記における左側の項目で、資産・費用の増加/負債・純資産・収益の減少を示す
貸方:複式簿記における右側の項目で、資産・費用の減少/負債・純資産・収益の増加を示す
となるので、少し理解しやすいのではないでしょうか?
勘定科目は5項目(資産・費用・負債・純資産・収益)に分かれる
次に勘定科目について。
勘定科目は、「全ての金額の内容を示す名称」のこと。
会社の金庫にある現金の勘定科目は文字通り「現金」だし、商品を販売して得た収入の勘定科目は「売上」です。
これなら誰でも理解できそうですが、例えば、収入印紙を購入した場合の勘定科目が「租税公課」であることは、ちょっと理解しにくいかもしれません。
「租税」は一般的に税金、「公課」は公的負担金のことであり、ふたつをまとめて「租税公課」となります。
印紙は印紙税を支払ったという証票、すなわち印紙を購入すれば税金を支払ったことになるため、勘定科目は「租税公課」で記録することになります。
次に、勘定科目は貸借対照表と損益計算書の、
資産・負債・純資産・費用・収益
の5項目に振り分けられるということ。それぞれは、以下の通りです。
資産:会社の財産に関する項目。貸借対照表の左側(借方)に記載されます。
現金による資産だけではなく、社用車といった物品や土地・建物といった不動産なども資産にあたります。
負債:いわゆる債務に関する項目。貸借対照表の右側(貸方)に記載されます。
短期借入金や預り金、買掛金などが負債にあたります。
純資産:資産と負債の差額のこと。貸借対照表の右側(貸方)に記載されます。
資本金や利益剰余金が純資産にあたり、どれだけ会社の体力があるか、数値で見ることができます。
費用:収益を得るために費やしたものに関する項目。損益計算書の左側(貸方)に記載されます。
商品を販売するための仕入や、販売にかかる経費、従業員への給与などは、全て収益を得るために必要な費用です。
収益:いわゆる売上のこと。損益計算書の右側(貸方)に記載されます。
売上以外に、受取利息や手数料、雑収入など、会社が受け取った利益にあたります。
全ての勘定科目とその振り分けについて、いちいち覚えるのは大変です。今は、ネットで「勘定科目一覧」と検索すれば出てくるので、それを参考にする程度で良いと思います。
実際のところ、大企業ならともかく、中小企業では使うことがないような勘定科目はたくさんあります。なので、一覧で出てきた勘定科目を全て使おうとすると、それこそ訳がわからなくなってくるでしょう。
基本的に、勘定科目は自由に設定できます。企業内で独自に取り決めた科目名を使っても、それが上述の5項目に振り分けられれば何ら問題はありません。
例えば、筆者の会社では複数の銀行口座を使用しており、これらを「A銀行口座」「B銀行口座」のように個別の科目名にして、総勘定元帳を出納帳がわりにしています。
また、筆者の会社は海外専門旅行会社のため、海外旅行の売上は「非課税取引」となり、消費税はかかりません。それ以外の取引は消費税の課税対象となりますが、それが1,000万円を超えなければ、免税事業者として消費税を支払う必要はありません。
この区別をつけるため、売上は「売上・海外」と「(国内)売上」の2つに分けて記録しており、決算書に記載するときにひとつの「売上」として計上しています。
勘定科目は、資産・負債・純資産・費用・収益の5項目に振り分けられれば、自社の規模にあった科目設定を使うことができます。
勘定科目は貸借対照表・損益計算書に当てはめて理解する
上述の通り、勘定科目の数は相当なもの。
これを全部使う必要はありません。自社にあった勘定科目だけ使えばいいし、あるいは自社独自の勘定科目の設定も可能です。
そう考えると、業種によって、あるいは小さな会社やスタートアップの会社によっては、そんなに多くの勘定科目を使うことはないでしょう。
ちなみに、筆者の会社で使用している勘定科目は50もありません。さらに、その中で決算時にしか使用しないような勘定科目もあるので、実質普段の仕訳に使用している勘定科目は40を少し超えるくらいです。
これくらいなら、仕訳もしやすいでしょう。
次に、よく使う勘定科目を、財務諸表のうちの「財務三表」といわれる貸借対照表と損益計算書(キャッシュフロー計算書は中小企業の場合省略できるので割愛)に当てはめると、以下のようになります。
【貸借対照表】
【資産】 (流動資産) (固定資産) |
【負債】 前受金 |
【純資産】 資本金 |
【損益計算書】
【費用】 (売上原価) (販売管理費) (営業外費用) (特別損失) (法人税等) (当期純利益) |
【収益】 売上高 (営業外収益) (特別利益) |
貸借対照表と損益計算書は、それぞれ別の表のように見えます。ですが、損益計算書で算出された当期純利益が、貸借対照表の純資産の部に記載されることからもわかるように、2つの表は連携してできています。
仕訳は財務三表の5項目の増減で決まる
次は、仕訳について。
会社の成績表とも言える「財務三表」の貸借対照表と損益計算書(キャッシュフロー計算書は中小企業は省略できるので割愛)の5項目は、
資産・負債・純資産・費用・収益
です。そして、複式簿記の原則は、
- 借方:複式簿記における左側の項目で、資産・費用の増加/負債・純資産・収益の減少を示す
- 貸方:複式簿記における右側の項目で、資産・費用の減少/負債・純資産・収益の増加を示す
- 借方・貸方の金額は必ず一致する
です。
この複式簿記の原則をよく見ると、借方も貸方もこの5項目の「増加」か「減少」しかありません。
つまり、仕訳とは5項目が「増える」と5項目が「減る」の組み合わせ、5×2の合計10パターンしかありません。
例えば、商品を販売して得た売上額が普通預金に振り込まれた場合の仕訳は、
資産(普通預金):増/収益(売上):増
ですし、社員に給与を支払ったら、
費用(給与):増/資産(普通預金):減
です。
財務三表の5項目と複式簿記の原則を表にすると、以下の表になります。
借方 | 貸方 | 例 |
資産:増 | 純資産:増 | 資本金を口座に入れた(主に会社設立時) |
資産:増 | 負債:増 | 借り入れをした |
資産:増 | 資産:減 | 社用車を購入した |
資産:増 | 収益:増 | 売上が振り込まれた |
費用:増 | 資産:減 | 社員に給与を支払った |
負債:減 | 資産:減 | 借入金を返済した |
費用:増 | 負債:増 | 仕入を掛けにした |
負債:減 | 負債:増 | 買掛金を手形で支払った |
負債:減 | 収益:増 | 前受金を売上とした(前期から繰越) |
純資産:減 | 資産:減 | 剰余金を配当として支払った |
これが、仕分けのパターンです。
筆者の場合、実際はあまりこのパターンを意識していません。例えば、普段の仕訳の際には、
支払時:現金や普通預金から支払った時は、これら資産の部の勘定科目は右側(貸方)、その原因となる費用などは左側(借方)
入金時:売上が振り込まれたら、振り込まれた普通預金(資産)は左側(借方)、その原因となる売上(収益)は右側(貸方)
というパターンが多いので、入出金によってどちらにどの勘定科目を記帳するか考えています。それは、慣れてくるとパッと出てくるものです。
あとは、仕訳の内容を勘定科目に当てはめていけば、主要簿のうちの仕訳帳を記帳することができます。
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