「幸せの地」という名の村、ブォンコンヴェント|私が訪れたイタリアの最も美しい村々

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ブォンコンヴェント

久しぶりに仕事でイタリアを訪れた。

フィレンツェ、パドヴァ、キオッジャ、そしてフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州を3週間かけてめぐったのだが、そのあいまにトスカーナの美しい村、ブォンコンヴェントに2泊した。

イタリアを訪れると、どうしても「イタリアの最も美しい村々」に立ち寄りたくなる。かつては絵を描く人のためのモチーフ探しのためだったが、今となっては訪れることが自分のライフワークのような気がしてならない。

ブォンコンヴェントも、絵を描く人のためのモチーフとしてツアーに組み込むはずだった。しかし、写真を見る限り、モチーフとしては他の美しい村に負けてしまう。

それでもずっと胸の内に引っかかっていたこの村に、やっと辿り着くことができた。

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ブォンコンヴェントは「幸せの地」

なぜ、ブォンコンヴェントがずっと胸の内に引っかかっていたのか?
それは、この村の名前の由来にある。

Buonconventoという地名は、ラテン語の「bonus conventus」に由来しており、「幸せで幸運なコミュニティ」という意味がある。それは、土地の肥沃さ、アルビア川とオンブローネ川の近さという、優れた環境から得られる利点を享受する人々が集まる村を意味する(https://borghipiubelliditalia.it より)。

つまり、ブォンコンヴェントは「幸せの地」なのだ。

ブォンコンヴェント ポルタ・セネーゼ

ポルタ・セネーゼ

村の旧市街は大きな2つの門、北側のポルタ・セネーゼと南側のポルタ・ロマーナ(戦争で破壊されて今はない)、それ以外は14世紀にできたという堅牢な城壁に囲まれている。この城壁も全て残っているわけではないが、かつては繭のように村全体を囲んでいたという。

わずか2つの入り口と堅牢な城壁は、何世紀にもわたってこの村を守ってきた。そして、周囲に広がる肥沃な大地と2つの川によって、村人たちは豊かな暮らしに恵まれてきた。

また、ブォンコンヴェントには「自由」という別の意味があり、芸術とセンスの村でもある。

村の名前に惹かれ、ずっと胸の内に引っかかっていたブォンコンヴェント、やっと訪れることができた。

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「イタリアの最も美しい村々」登録基準の意味

「イタリアの最も美しい村々」協会では、あまり知られていないイタリアの膨大な歴史的、芸術的、文化的遺産は大都市にはなく、小規模であまり知られていない町や村にこそあると考えている。
それだけではなく、食とワインの伝統、宗教的で俗的な祭り、汚染されていない風景など、イタリアの最高のものの集合体を「イタリアの最も美しい村々」としている。

今まで、絵を描く人のためのモチーフ探しからいろいろな美しい村をめぐってきた。そして、そのほとんどがまるで小さな宝石のような魅力的な村であったことは確かだ。

しかし、ブォンコンヴェントは違った。

村をぐるっと一周してみたが、特に珍しい建造物はなく、外観も他の美しい村と比べてもかえって見劣りするくらい。以前の自分だったら、ここを訪れてもきっとがっかりしていただろう。

だが、ブォンコンヴェントに2泊してみて、美しい村に登録された本当の意味、そして「幸せの地」という名前の意味がわかった。

なにしろ、ここの村人たちはみんな幸せそうだ。

ちょうど訪れた日の夕方、あるお祭りがあったのだが、大人から子供まで集まって屋台の食べ物を食べ、ワイングラスを交わしあい、本当に楽しそうだった。

ブォンコンヴェントのお祭り1
ブォンコンヴェントのお祭り2
ブォンコンヴェントのお祭りプログラム

イタリアでも、若い人たちの都会への流出が顕著らしい。だが、ここではちょうど働き盛りの若い人たちが村に残り、老若男女問わず祭りに参加している。まるで、文字通りBSで放映されている「小さな村イタリア」に出てくる村のようだ。

古くから旅人の中継地点でもあったようで、異国から来た旅人(自分たち)も、まるで住人のように普通に接してくれる。滞在している間、自分たちもここの住人になったように感じ、一緒に「幸せの地」を共感できたような気がする。

これこそが真の「イタリアの最も美しい村々」なのかもしれない。

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貸しアパートメント「La Casa Gialla di Buonconvento」

フィレンツェからシエナまでは快速列車、そこから先は各駅停車でブォンコンヴェントまで、約2時間で到着。

シエナの駅で軽く昼食を済ませたので、到着したのは昼過ぎ、お店も昼休みの時間帯だ。夏の暑さもあってか、ほとんど村人を見かけることはない。静かに眠ったような印象だ。

駅から歩くと、ポルタ・ロマーナ側から旧市街に入ることになる。入ってすぐ右手に、どこにでもあるようなバールがある。この日の宿は確かこの近くなので、店主に聞いてみた。すると、すぐ隣の入り口がそうらしい。鍵を渡してくれる予定の宿のオーナーに連絡をとってくれ、少しここで待たせてもらった。

少ししてやってきたのは、見るからにとても明るい女性オーナー、エンツァだ。英語はあまり得意ではないらしいが、鍵を開けてから部屋のあちこちを案内する間、カタコトの英語とイタリア語でコミュニケーションをとってくれる。また、滞在中何かあれば、メールですぐに連絡すれば対応するという。

彼女をみているだけで、幸せの地にいることを実感できるような気がした。そして、このアパートメントを、自分の家のようにくつろいで使って欲しいという気持ちが伝わってくる。

部屋の入り口はダイニングキッチン。トースターから冷蔵庫、コンロに食器類が揃っている。

続きの部屋へ続く短い廊下を通ると、右手にはバスルーム。洗濯機があるのは嬉しい。この洗濯機の使い方も、エンツァが教えてくれた。

そしてリビング兼ベッドルーム。かなり広い。Wi-Fiはダイニングキッチンの黒板にIDとパスワードが書かれているので、使い放題だ。あいにく、ベッドルームは電波が悪いようだが。

Booking.comでこのアパートメントを見たとたん、ホテルという選択は無くなった。その時から、エンツァのホスピタリティを感じられたのかもしれない。

旧市街のメインストリート、ソッチーニ通りのど真ん中にあるこのアパートメント、ブォンコンヴェントにきたら、ぜひ泊まってみてほしい。

朝食は部屋代に含まれていない。だが、部屋から出れば隣はバール、また旧市街の入り口にも気持ちの良さそうなバールがある。1日目の朝は隣のバールで、2日目の朝は朝6時からやっている旧市街の入り口のバールで朝食をとった。

ブォンコンヴェントのアパートメント1
ブォンコンヴェントのアパートメント2
ブォンコンヴェントのアパートメント3
ブォンコンヴェントのアパートメント4
ブォンコンヴェントのバールで朝食

ヴィンテージバイクのイベント「エロイカ」の村

「エロイカ」という言葉は、自転車愛好家ならご存知だろう。

ツール・ド・フランスなどのロードレースとは違い、ヴィンテージバイク(古き良き自転車)で走るサイクリング・イベントだ。日本語のサイトもあるので、興味がある方はご覧になってみてほしい。

ブォンコンヴェント滞在の後、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州をぐるっと1周するサイクリングツアーに参加予定の自分たちは、当然のことながらエロイカの存在も知っており、YouTubeでもそのイベントの映像をみたことがある。

スピードを競うのではなく、ヴィンテージバイクでゆっくりと、しかし確実に決められたコースを完走するのは、観ていてもワクワクするイベントだ。

そんなエロイカが、ここブォンコンヴェントでも行われたらしい。しかも、滞在するほんの1〜2週間前だったという。

村のメインストリートには、その名残りとも言える旗が残り、また村のあちこちでもエロイカが行われた形跡を見つけることができた。

なにしろ、ここはトスカーナ。糸杉並木があちこちに見え、「The イタリアの田舎」という風景がブォンコンヴェント周辺にも見られる。こんなところをゆったりと自転車で走れたら、普通の旅行では味わえない感動があることだろう。

ブォンコンヴェントは、毎年ショートライドコースとして設定されているので、またいつか訪れる機会があれば、今度は参加もしてみたい。

ブォンコンヴェントのエロイカ1
ブォンコンヴェントのエロイカ2
ブォンコンヴェントのエロイカ3
ブォンコンヴェントのエロイカ4
ブォンコンヴェントのエロイカ5
ブォンコンヴェントのエロイカ6

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誰でも入れる駅前食堂「Ristorante Bar Amici di Campriano」

Amici di Campriano1

ブォンコンヴェントの駅前に、1軒のリストランテがある。Ristorante Bar Amici di Camprianoだ。

一般的に、イタリアのレストランはグレードの高い順にリストランテ、トラットリア、オステリアというように分かれている。それにならうと、このリストランテはグレードの高いレストランだと思うだろう。

ところが、こんな小さな田舎の村では、レストランのグレードなどない。

「リストランテだから、ちょっとおめかしして行かなくては」
とか
「お値段もお高めなのかも」
といった気後れは全く無用。

料金は良心的、日中近所で作業をしていた男たちが、工具がささった作業着のまま気軽に入れるレストランだ。入り口部分はバールになっていて、気軽にコーヒー1杯で立ち寄ることができ、奥にテーブルがいくつもある。人気のレストランのようで、なんとか1テーブル空けてもらった。

ランチ時でもコースで頼む必要はなく、食べたいものを食べたい分だけ食べられるのも嬉しい。労働者たちはみんな、パスタとデザート(なぜかデザートはみんな頼んでいた)とコーヒーで午後の仕事に備えていた。

トスカーナといえば、ピーチという太麺のパスタとラグーソース、時期によってはイノシシ肉などのジビエが名物。

自分たちは、白いラグーソースのピーチとイノシシのタリアテッレ、そして食後のコーヒーを頼んだ。

味はもちろん最高、いくらレシピがわかったところで、この味はやはりイタリアに来て食べないと味わえない。

Amici di Campriano2
Amici di Campriano3
Amici di Campriano4
Amici di Campriano5

もう一度訪れたいと思わせる村

最終日の朝は、移動のため早くにこの村を出発する予定だった。宿のオーナー、エンツァに鍵を返し、滞在税を払うことになっているのだが、彼女は予定の時間ギリギリに訪れた。

列車の時間が近づいている中別れを惜しみ、最後に彼女とハグをして駅へ向かった。

「今まで、地元の人とハグをして別れるなんてことがあっただろうか?」

「これが幸せの地がなせることなのだろうか?」

「もう2〜3泊したい」

様々な思いが湧き上がるのを感じながら、駅まで歩いた。

イタリアは、とても人情が厚い。そして、人に優しい。また、どこの町や村でも、印象に残る人が必ずいる。

ブォンコンヴェントは、その全てを持っている。もはや「イタリアの最も美しい村々」などどうでもいい、この村にもう一度帰ってきたい。

そんな町や村を、あなたは持っているだろうか。

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