筆者自身が添乗員として、実際に訪れた美しい村を紹介する第2回目は、ピエモンテ州クーネオ県ガレッシオ。
なぜここが美しい村に登録され続けているのか、という疑問を持ちつつ訪れた村だ。
ここは美しい村なのか?
夕暮れの車窓から見えるのは、何の変哲もないイタリアの小さな村。いや、それさえも語弊がある。
今まで自分の目で見てきた限り、例え通りすがりの無名の町や村でも、「イタリア」といった色合いや特色があったと思う。
そのなかでも、美しい村に登録された村は顕著な特徴があり、その景観や周りの自然との調和により、特筆すべきところばかりだった。
ところが、初めて訪れるガレッシオが近づくにつれ、車窓から見えるのはイタリアらしくもなく、またヨーロッパの町並みの中でも陳腐なほうというべき普通の村、それも、さびれた感じが強かったからだ。
正直なところ、ここを美しい村として選んだことに失望感がじわじわ膨れ上がり、それでもどこか美しい村の登録理由があるかもしれない、というかすかな望みをもちつつホテルへと向かった。
ようやく車はホテルに到着。あいにく、ホテルの周りも人通りもなくさびしい限りだ。明日のガレッシオロケハンが思いやられそうだ。
絵を描くお客様にご案内するため、美しい村シリーズとしてツアーを造成し、自ら添乗員として案内してきた。
時には、お客様の意向やモチーフに合わない町や村があったりする。
その時は最悪だ。
移動途中に立ち寄ったところなら、そのまま次の宿泊地まで足早に移動すればいい。
しかし、じっくりスケッチするために、宿泊は3泊以上としているツアーで、”はずれ”の村や町に連泊するときほど、肩身の狭い思いをすることはない。
どうにかモチーフに合うところを探しては案内するが、それでも良い絵を描きたいと思ってツアーに参加したお客様の機嫌は、なかなかよくならない。
今回もそんな村を選んでしまった、という思いだ。
ホテルに入り、チェックインの手続きをする。いつも通り部屋割りを確認し、部屋番号一覧と全室の鍵を貰ってお客様に配る。
どのホテルでも行っているように、食事の際のレストランの場所を確認し、部屋から部屋への電話のかけ方、外線電話のかけ方を確認する。
すると、電話機はないという。
国際電話可能な携帯電話が普及しているから、さほど問題ないかもしれないが、お客様の中にはそのような携帯電話を持っていない人もいる。
万が一の緊急連絡は、どうすればよいのか?
そんな余計な心配でまた気落ちするほど、ここまでのところ、なにも良いところはない。
Hotel Giardino
ホテルオーナーは、ほぼ一人で仕事をしている、というか他のスタッフを見たことがない。
今回も、ツアーのお客様で貸切状態だ。
こんなとき、日本人は「いざというとき、どうするのか?」とすぐ考えがちだが、ここはイタリア。
「お客様が満足してもらえればよい」という発想らしい。
初日の夕食時、オーナーはテーブルにつきっきりだ。
聞くところによると、同じクーネオ県のアルバに近いこともあって、トリュフが名産なのだという。夕食は、トリュフの香りを楽しめるメニューになっていた。
前菜に生ハムとメロン、セコンドはラザニア、メインはナスの付け合せとウサギ肉。テーブルに赤ワインをいくつか頼んで、オーナーは、ひとりひとりメインの皿の上に、トリュフオイルをかけてまわる。そして、さも「今日の料理にピッタリだろう?」とでも言わんばかりの、満面の笑みだ。
どうやら、チェックイン時に不満顔だった筆者の様子を気にして、出来る限りのもてなしをしようとしてくれているのかもしれない。
とすれば、例えメインの目的がうまく達成できずとも、何か収穫があるのではないか?
そう思いつつ、初日を終えた。
Borgo Maggiore(Borgo Medievale – 中世の村)
翌日は、終日ロケハンだ。
まずは、ホテルオーナーに聞いて、旧市街と言える地区への道のりを聞いた。
ホテル前の1本道を進めば、すぐに旧市街だという。そこが「美しい村」なのかもしれない、という期待を持って進んでみる。
入口に、中世の門番が立っていそうな建物(Porta Rose)、そこが入口らしい。
その横におなじみの「美しい村」の看板と、中世の絵画のような案内図があった。
観光立国であるイタリアは、どんなに小さな村でも、その村の案内図がある。あるところでは銅板の案内図だったり、またあるところでは、ここガレッシオのようにアーティスティックなものだったり。
とにかく、案内図の通りに進んでみる。
城壁の名残に沿って、年季が入った石畳を道なりに歩くと、いくつか教会が見える。
そして、城壁の角に張り出して作られた、見張り台のような建物。その向こうには石造りの門がある。
なるほど、ガレッシオの美しい村たるゆえんは、言葉通り、中世をそのまま現代に引き継いだような村の保存状態なのかもしれない。
そのまま道なりに進むと、小さな川の向こうにロマネスク・ゴシックスタイルの古い教会が見えてきた。
サンタ・マリア教会という13世紀のものらしい。
そして、次に見えてきたのが、ひときわ大きな赤レンガ色の美しい教会、マリア・ヴェルジネ・アッスンタ教会。
それにしても、旧市街も人っ子一人いない。そのうち空模様が怪しくなり、雨が降ってきた。
出発前に、現地手配会社担当から、この時期のガレッシオは雨が多く寒暖の差が激しい、と聞いていたが、その通りだった。
抱えている仕事もあり、ホテルに戻った。
美しい村ガレッシオ
最終日は、ホテルオーナーから聞いた、丘の上に建つ教会へ車で向かう。
そこに建つのは、「ヴァソルダの聖地」と言われる祈祷堂。
なんでも、目も見えず耳も聞こえない少女が完治する奇跡が起こったことから、今でもたくさんの巡礼者が訪れるそうだ(出典:吉村和敏著「イタリアの最も美しい村全踏破の旅」)。
そこから見下ろすガレッシオは、素朴な山間の村だった。
朝靄が向こう正面の山々にかかり、こちらの丘との間に、ひっそりと村が広がっている。
聞くところによると、ここは巡礼とテルメとスキーリゾートの村らしい。
なるほど、村のあちこちに湧き出る鉱泉が蛇口から出る水道が、設置されている。また、ガレッシオのミネラルウォーターというのも、イタリアではポピュラーらしい。
そして、冬にはきっと多くのスキー客がこの村を訪れるのだろう。秋はその準備のシーズンだ。
その前の日、ホテルにここの村長がやってきた。
何でも、日本人がこの村に、それも団体で来るのは初めてらしい。
夕食時に表敬訪問の形で訪れ、様々な資料を持ってきた。その中に「Garessio Ieri e Oggi」という本があった。
イタリア語で何が書いているのか読むには苦労するが、中の写真を見る限りでは、文字通りガレッシオの歴史を1冊の本にまとめたものらしい。きっと、ガレッシオという村をもっと知ってほしいということなのだろう。
出だしからつまづいたホテルの対応も、この村長の表敬訪問も、初めて見る日本人を一生懸命もてなそうとしてくれているのだと思うと、それも素朴なイタリアの村、美しい村の要因のひとつなのかもしれない。
いくつか写真をアップしてあるので、興味のある人はこの村を訪れてみてほしい。そして第一印象に惑わされることなく、のんびりとガレッシオを歩き回ってみてほしい。
ガレッシオのフォトギャラリーは以下から。
コメント