筆者自身が添乗員として実際に訪れた美しい村を紹介する第5回目は、前回のエミリア=ロマーニャ州から再びリグーリア州へ戻ることにする。「イタリアの最も美しい村々」といったら最初に思い浮かべるであろう村、アプリカーレだ。
公式サイトでは各村に優劣をつけているわけではないが、アプリカーレは全250近い中で、おそらくナンバー1の村と聞いたことがある。
それがもし本当なら、なぜナンバー1なのか、それを知るためにも訪れる価値はありそうだ。
アプリカーレまで
自身で考え催行したツアーの内容は、トリオラに滞在中、アプリカーレへの日帰りを日程に入れることだった。
本当はアプリカーレにも宿泊したほうが良いと考えたのだが、残念ながらグループサイズの宿泊客を受け入れることが出来る宿泊施設がない。そのための日帰り日程だ。
このシリーズ1回目で紹介した通り、宿泊地トリオラは標高の高い山の中にあるため、アプリカーレまでの道のりも、リグーリアの山々をいくつか超えながらとなる。
またも途中は、カーブの連続だ。
ある山の頂上では、風力発電のための風車が廻っていて、山道はそのすぐ下を通っていた。羽が風を切る音は想像以上で、バスの中にいても、ものすごい音がした。
風車の下を通り過ぎたのち、突然バスが止まったのでどうしたかと前方を見ると、道路に出てきた山羊の群れ。
大型バスに臆することもなく、ゆっくりとまた山の中へ入っていった。リグーリアの山道はそんな感じだ。
予備知識では、アプリカーレは「イタリアの最も美しい村々」のナンバー1だったから、到着するまで期待は高まった状態だ。
道は谷の斜面をなめるようにカーブが続き、いくつか過ぎた後に、それらしき村が谷の中腹に見えてきた。
「あれがアプリカーレか?」と思いドライバーに聞くと、「あれはカステル・ヴィットーリオという小さな村だ」とのこと。
どうやら早合点のようだ。
それから15分ほど走ると、ドライバーが筆者の気持ちを察するように「あれがアプリカーレだ」と教えてくれた。
山と山の合間の谷にぽっかりとひとつの小島が浮いているように見え、その頂上に張り付くように家並みが広がっている。
アプリカーレだ。
アプリカーレは「イタリアの最も美しい村々」のナンバー1なのか?
アプリカーレの語源は、ラテン語でApricus(Open to the sun: “太陽に向けて開かれた”の意)だそう。
その通り、リビエラ海岸全体に降り注ぐ太陽の陽ざしをめいっぱい受けて、村全体が輝いているように見える。
標高は291mだが、周囲を山に囲まれていることに加え、谷と谷の間に浮かぶような立地条件は、この地方の気象条件と合わせると、一年中温暖なのだろうと感じさせる。
麓の駐車場から、村の中心を目指して曲がりくねった道を登ると、朝方トリオラで感じた涼しい秋から、急に夏に戻ったかのような気候も加わり、汗ばむくらいの陽気だ。
村の一番高いところにある広場に面した、石造りのマリア・マッダレーナ教区教会のファサードが、村全体を見下ろしていた。
個人の感想や見解はいろいろあるだろう。
イタリアのみならずフランスの美しい村々も数多く見てきた筆者にとっては、特にアプリカーレが「イタリアの最も美しい村々」のナンバー1という感想は受けなかった。
けれども、この村の名前の語源の通り、陽ざしが全ての建物に燦々と降り注いでいるその村の姿は、まさにイタリアを表している風景だ。
「イタリアの最も美しい村々」の中には、四季折々の中で輝く村もあれば、特定の季節にその魅力を発揮する村もある。
おそらく、アプリカーレは前者で、いつ訪れてもその輝かしさを「これでもか」というくらいに見せつけてくれるのだろう。
リビエラの強い日差しが降り注げば、その分影も濃い影となる。これもまた、美しさの一因かもしれない。
結局のところ、アプリカーレが「イタリアの最も美しい村々」のナンバー1であるかどうかということはわからずじまいだった。
けれども筆者自身の主観でいえば、訪れるに値する村だ。
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