筆者自身が添乗員として実際に訪れた、美しい村を紹介するこのシリーズでは、これまでに8つの村を紹介してきた。
しかし、今回は添乗員としてではなく、アブルッツォ州をはじめとしたイタリア視察旅行で訪れた美しい村、タリアコッツォを紹介する。
添乗中は、時間的制約やお客様と一緒の時が多いため、なかなかひとつの村をじっくり探訪することが出来ないが、このときは個人でじっくりとタリアコッツォを探訪することが出来た。
なぜタリアコッツォなのか
アブルッツォ州には、計23もの村が美しい村に登録されている。
一般的に、アブルッツォ州の中で特に美しいと紹介されているのは、サント・ステーファノ・ディ・セッサーニオだ。
しかし、なぜサント・ステーファノ・ディ・セッサーニオではなく、タリアコッツォを紹介するのか?
理由は2つある。
タリアコッツォを紹介する理由 1
一つ目の理由は、そもそも、なぜこのブログで美しい村について書き続けているかと、いうことにもつながる。
いくらメディア機器が発達しても、海外の魅力的な画像や映像だけで得る感動は疑似体験で、そこに行ってみなければ、本当の感動は味わえない。
訪れた先で感じる季節、陽が登り沈むまでの影の動き、気温、そこに吹く風、そこで味わう食事は、出かけなければ体験できないことであり、かつ感動と連動する。
昨今、海外旅行に行ったことがないという若い人が多いらしいが、ここに書いている村に少しでも魅力を感じたら、ぜひ出かけてほしいという、旅行会社としての願いからだ。
中でもタリアコッツォは、基点となる都市から鉄道を利用して簡単に訪れることが出来る。
上述のサント・ステーファノ・ディ・セッサーニオへは、レンタカーを利用して自分でドライブして訪れるか、ツアーに参加して訪れるしかない。
つまり、思い立ったら意外と簡単に訪れることが出来る美しい村ということだ。
タリアコッツォを紹介する理由 2
二つ目の理由は、ウェブサイトにも書いている通り、アブルッツォを訪れるきっかけとなった石川康子氏の著書、「あなたの知らないイタリア ミステリアスガイド・アブルッツォ」で、最初に出てくる村だったことにある。
自らイタリアの美しい村を紹介しているため、自分をアブルッツォへと導いたこの本の最初に書かれていたのは、何かの縁かもしれないと思ったからだ。
オベリスコ広場とサン・フランチェスコ教会
今回は、アブルッツォ州を視察する基点として選んだ町、スルモーナから鉄道を利用して出かけた。
ローマ行きの各駅停車に乗って約1時間、タリアコッツォ駅に到着。
この路線の列車は、電車ではなくディーゼル列車だ。途中山間地を運行するため、ディーゼルの馬力が必要なのだろう。かなり古い車両を使っていて、車体には落書きがかかれたまま、消しもせずに使用している。
7月終わりのタリアコッツォ駅は天候も良く、気温もだいぶ高かった。と言っても、日本のような猛暑ではない。
駅から旧市街へ移動する前にバールで一休み。
イタリアに来て覚えたことは、日本でいうアイスコーヒーを飲みたいと思ったら、「カフェ・シェケラート」をオーダーすること。
アメリカンのような薄いアイスコーヒーではなく、エスプレッソに氷を入れてシェイクしてくれる、とても濃い、しかしコーヒーの味わいを楽しむことが出来る、イタリア版アイスコーヒーだ。この日は暑かったので、さっそくカフェ・シェケラートで一息。
駅からの直線道路を進むと、旧市街入口にある広場に辿りつく。
訪れた日は日曜日で、広場にはたくさんの人が思い思いに休日を楽しんでいた。そこで感じたことは、タリアコッツォは村というよりは町だということ。
まずは、観光案内所でタリアコッツォの地図を貰う。観光地としても開けているので、日曜日でも案内所はオープンしていた。
本当に小さな村だったら、日曜日に観光案内所が空いていることは、まずない。
この地図に沿って歩くことにし、まずは旧市街入口のマルシ門をくぐる。
すると、目の前にまた広場がある。カラフルな建物に囲まれたこの広場は、オベリスコ広場(冒頭画像)。
イタリアらしく、広場にはバールやレストランがテラス席を広げている。
昼食はこの広場で取ることにしよう。
広場を横切り、地図に沿って登り坂の小道を進む。
タリアコッツォを象徴する建物は、サン・フランチェスコ教会とデュカーレ宮殿、どちらも聞いたことがある名前だと思う。
サン・フランチェスコはアッシジにあるサン・フランチェスコ・ダッシジ、デュカーレ宮殿はヴェネチアにあるデュカーレ宮殿と同じ名前だ。
アッシジともつながりがあるサン・フランチェスコ教会は、とても見事な建物なので、じっくり見てみた。
正面は、大きなバラ窓があるファサードに守られている。
中に入ると、数多い窓が陽の光を取り入れ、意外に明るい。そしてアッシジと関連があることを示す横たわる像(たぶん聖フランチェスコ?)と、その説明分が掲げられていた。
教会横には、パティオを囲む建物が増築されており、パティオに面した廊下はフレスコ画の美術館のようだ。
一つ一つ見て歩くだけでも時間がかかるが、さらに見事なのは、入口の天井に描かれたフレスコ画。
そして、パティオを通して教会の鐘楼が見え、ここから眺めると一幅の絵のようだ。
サン・フランチェスコ教会を訪れるだけで、タリアコッツォに来た甲斐がある。
そのためデュカーレ宮殿は入れなさそうな雰囲気もあり、外観だけで通り過ぎてしまった。
タリアコッツォでのランチ
旧市街はアップダウンが多く、夏の日差しもあったため一休みが必要だ。
美しい路地を堪能したのち、オベリスコ広場まで降りてきて、昼食をとることにした。
何軒か覗いてみて選んだのは、広場の中心にテラス席を広げている1軒のレストラン。値段がリーズナブルな、気さくな感じが選んだ理由だ。
この視察で訪れた、シチリア・ラグーサで出会ったラビオリ(日本で見るラビオリとは大きさが違う)にはまっていたこともあり、ビールと前菜の生ハム盛り合わせでのどを潤した後は、2種類のラビオリを選んだ。
一つはトマトソースのシンプルなラビオリ、もう一つはハーブを効かせたラビオリだ。
程よい疲れの時は、この程度の食事で満足してしまう。隣のファミリーは大人数で山盛りの肉類(ステーキやらスペアリブやら)を食べていた。
すると、急に怪しい雲が広がり、すぐに雷とともに激しい雨が降ってきた。
テラス席はテントになっていて、急な雨に備えビニールの雨除けをたらし、客席に雨が吹き込まないようにしてくれた。
にわか雨なら、やむまで食後のコーヒーで雨宿りだ。しばらくすると、あの雨は何だったのだろう?というくらいに晴れたので、レストランをあとにした。
午後は、周りから村を攻めてみよう。
美しい村は、その外観ゆえ登録されているところもたくさんある。
山にへばり付くように建っているタリアコッツォの家並みは、離れてみるとその良さがわかるかもしれないと思ったからだ。
だが、あいにく再び雲が広がってきて、本来のタリアコッツォの美しさがわからない。それでも暗くなってしまうことを覚悟しながら、遠景のタリアコッツォを写真に収めた。
いつも晴天ばかりではない、これも旅ゆえだ。
イタリアの美しい村は、交通の便の悪さ、日本の感覚では理解しにくい宗教観溢れる村、一度廃墟になった後復元されたり人里離れて孤立した村など、最初に訪れる村としてはとっつきにくいところが多い。
だが、タリアコッツォは気軽に訪れる手段、華やかで美しい教会があり、最初に訪れるには良い村かもしれない。
そして何より、村の中に3つ星及び4つ星ホテルが各1軒ずつあるので、じっくり見て廻りたいと思ったら宿泊することも出来る。
ここの空気や風を感じたいと思ったら、一度訪れてみてはいかがだろうか?
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